2016年6月26日日曜日

影響を受けた書籍 Part I

 さらに、紙に書き残された思想は、砂地に残された歩行者の足跡以上のものではない。なるほど歩行者がたどった道は見える。だが、歩行者が道すがら何を見たかを知るには、読者が自分の目をもちいなければならない。
ショーペンハウアー 『読書について』 鈴木芳子・訳 光文社古典新訳文庫
投資をするにあたって私が影響を受けている書籍を挙げてみます。記事を3回に分けますが、最初の2回は投資そのものだけというより、大げさに言うと、生き方や仕事に対する考え方(ちょうど仕事を辞めて身の振り方を考えていたので)に影響を受けているものを紹介します。
まずは

『リスク・テイカーズ』 川上穣 日本経済新聞出版社

この本、面白いですね。


8人の大物投資家(ウォーレン・バフェット氏やカイル・バス氏等のファンドマネージャー)を、直接取材し(バフェット氏に対しては直接ではないような気がする)、彼らの仕事っぷりや考えを紹介している本になります。

この手の本は、なぜか日本人が書くと読んでいてつまらないものが多いのですが、『リスク・テイカーズ』は読み応えがありました。純粋に読み物として楽しい。

取り上げられた面々は大物過ぎてですね、私ごときが投資に関して直接的に参考になることはあまりないです。

ただちょうど前の職場で煮詰まり感を覚えつつあったこともり、これらの一流のファンドマネジャーたちの仕事に対する姿勢や物事のとらえ方・考え方は、大いに刺激になりました。

印象に残った箇所をまとめると:

  • たくさんのことを知っていることが大事ではなく、その時々で最も重要なことは何かを察知できる能力が重要 (ダニエル・ローブ氏)
  • 本質を正しく見抜く能力、そのときに何が最も重要な材料であるかを察知する能力。今この瞬間に最も大切なことは何かに集中し、そこから確固たる答えを導き出す。そしてリスクを取って誰よりも早く動く (著者によるデイビッド・テッパー氏の評)
  • 株式を自分が買ったときには、反対側にそれを売った人がいる - 売り手は売り時と判断しているはず (デイビッド・アインホーン氏
  • 投資において粘り強さが何よりも重要 (ビル・アックマン氏)
  • どんな局面でも自分の信念を貫き通し、ぶれない姿勢を持つ。多くの投資家が直接資料を読んでいないことに驚きを感じる。SECの提出書類を徹底的に読み込め。 (ジム・チェイノス氏)
  • 反対の声に耳を傾け、自分が知らない情報があるか確かめたうえで、自説を主張する。何事にも疑問を持ち、解を得ようとせよ。 (ジム・チェイノス氏)
  • 失敗は、現実をありのままに受け入れ、適切に行動することができなかった結果。現実を飾り立てるな (レイ・ダリオ氏)
  • 考えられる限り最も優秀な人々に対し、自分の考えをストレステストにかけ、その考えの弱点を炙り出す (レイ・ダリオ氏の生き方の5か条より)
  • 何かをやろうとするときは人がそれをどう思うかを気にしてはいけない (レイ・ダリオ氏)

ざざっとこんなところですが(他にももっとたくさんあるけど)、これらを彼らが体験したエピソードとともに、うまく書かれています。

なんというか、投資に当たっての心構えというより、課題や仕事、人生に対しての向きあい方みたいな感じですね。

ちなみにレイ・ダリオ氏の部分は、本当に役に立つ言葉にあふれていて、ちゃっかり転職活動の面接に使わせてもらいました。

-で、K.さんが仕事を進めるにあたって重きを置いていることは?
-ハイ、私は、まず自分の考えを、周囲の優秀な方々にきちんと披露して、ストレステストにかけることを心がけています。そうすることにより、独善に陥ってしまうことを避けるよう・・・云々カンヌン・・・

ははは、実のところ私は、以前の会社でボスとの四半期ごとの面接で毎回、「K.さんは、独りよがりの傾向がある、もったいない、もうちょっと他人の意見に耳を傾けないと・・・ほら先日の件もさ、あそこまでこじれたのは・・・」とか言われ続けていたのでした・・・

でも一般的なビジネスマンが自分自身をストレステストにかけようとすると(言い換えればまっとうな評価をもらおうとすると)、転職活動のインタビューを受けるのが最適ですね。

ある日なんて、午前中の面接で「ってゆーか、10年も勤めた会社を辞めるなんて、何を血迷ってんのって感じなんだけど、どーして辞めたの?」と言われたかと思うと、午後の別の会社の面接で、「よーくもまあ、10年も同じ会社にいたもんですね、失礼ですけどアナタには向上心っつーもんが無いように見受けられますが・・・どーして10年もダラダラ過ごしてたのか、お聞かせ願えます?」とか訊かれたりしました。

双方とも、きれいな女性面接官による英語交じりのプレッシャー型面接でした。とくに後者の方はスイッチが入るといきなり英語に代わるんだよな。何語で答えりゃいいのか迷ったぜよ。こういう面接があると、しっかり自身を見つめなおすよいきっかけになりますね。

話題がそれた。

この本であと面白かったのは、デイビッド・アインホーン氏の生活パターン。彼は列車通勤(ウエストチェスターからニューヨークまでだと一時間弱くらい?)ですが、なるべく夕食を家族ととり、子供とともに夜9時に就寝し、午前3時ごろ起床して、自宅で仕事を始める・・・うーん、名うてのファンド・マネージャーがちゃんと子供たちと夕食をとっているのに、しがないサラリーマンが夜遅くまでヒーヒー働いているのは、いや、とってもみじめですな。

それからダニエル・ローブ氏とレイ・ダリオ氏は瞑想を行っているという事実も興味深かった。Be yourself, no matter what they say(参考記事:『紳士は決して走らない』)を実行するには、こういった瞑想とかもいいかもしれない・・・

ということで、最近は朝四時半に起き、20分ほど瞑想とかやっとります。ウィークエンド・テニス・プレーヤーが錦織選手のラケットやシューズを揃えるのとおんなじレベルの話ですが・・・。あと、なるべくムスメがすやすやと寝始める前に帰宅するよう努めています。

というわけで、決して世間に流されず、自分の目で見て、自分の手で感触を確かめ、自分の頭で考えて、自分の責任で判断を下し、自分の肝っ玉で実行し、しっかりと結果を受け止めて成功をした(2014年時点)人々を簡潔にまとめたこの本、そんじょそこらのビジネス教本みたいなのとは一線を画す良書です。

もちろん、同じような姿勢で事に臨み、少なくともファンドマネージャーとして大失敗に終わった人の数のほうが余程多いのでしょうけど。


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